阪急ブレーブスロボの秘密
薄暗い喫茶店。窓の外では雨がアスファルトを叩き、店内に静かなリズムを刻んでいる。向かい合って座る二人の男、片方はボサボサ頭の髭面、もう片方は七三分けに黒縁メガネという、まるで正反対の風貌だ。
「なあ、加藤。」ボサボサ頭の男、田中が煙草の煙をくゆらせながら口を開いた。「お前、阪急ブレーブスって知ってるか?」
黒縁メガネの加藤は、コーヒーカップを静かに置き、真剣な顔で答えた。「もちろんです。阪急電鉄が運営していたプロ野球チームですね。1988年にオリックスに身売りし、現在はオリックス・バファローズとなっています。」
「おお、詳しいな。さすが加藤。」田中は感心したように頷いた。「じゃあ、その阪急ブレーブスがさ、もしもまだ存在してて、しかもそれが…巨大ロボットに変形したらどう思う?」
加藤は目をしばたたかせた。「巨大ロボット…?阪急ブレーブスが…?」
「ああ。阪急ブレーブスロボだ。想像してみろよ。甲子園のど真ん中に、阪急ブレーブスカラーの巨大ロボットが仁王立ちしてるんだぜ?かっこよくないか?」田中の目は少年のように輝いていた。
「…田中さん、それはさすがに…」加藤は困惑気味に言葉を濁した。「それに、阪急ブレーブスロボが変形して何をするんですか?」
「何をするって…そりゃあ、野球だろ!」田中は当然のように答えた。「巨大バットでホームランを打つんだ!ピッチャーはロボットアームから剛速球を投げる!キャッチャーはミット型の巨大な手でボールをキャッチするんだ!」
「…キャッチボールすら危ないですよね?それに、ロボットが野球をしたら、相手チームの人間が怪我しますよ。」加藤は冷静にツッコミを入れた。
「大丈夫だ!ちゃんと安全装置はついてる!それに、相手チームも巨大ロボットで対抗すればいいんだ!巨人ロボ対阪急ブレーブスロボ!西武ライオンズロボ対近鉄バファローズロボ!夢のロボット野球リーグだ!」田中の興奮は最高潮に達していた。
「…いや、だから、そもそも…」加藤はため息をついた。
「それに、阪急ブレーブスロボには秘密兵器があるんだ!」田中はさらに畳み掛ける。
「…秘密兵器?」
「ああ、必殺技『阪急電車アタック』だ!ロボットの腕が阪急電車に変形して、敵に突撃するんだ!線路を走る阪急電車が敵に向かって突っ込んでいく様を想像してみろ!迫力満点だろ!?」
「…阪急電車が武器って…もはや野球じゃないですよね…」加藤は諦めたように呟いた。
「まあ、細かいことはいいんだよ!とにかく、阪急ブレーブスロボは最強なんだ!」田中は勝ち誇ったように笑った。
「…そうですか。田中さんがそう言うなら、きっとそうなんでしょう…」加藤はコーヒーを一口飲み、静かに窓の外を見つめた。雨はまだ降り続いていた。
しばらく沈黙が続いた後、田中はポツリと呟いた。「…でも、阪急ブレーブスロボの弱点…実はあるんだ…」
「…弱点ですか?」加藤は少し興味を持ったように顔を上げた。
「ああ…実は、阪急ブレーブスロボ…雨に弱いんだ…。」田中は寂しそうに言った。
「…雨に弱い…?」加藤は思わず聞き返した。「なんでですか?」
「…だって、阪急電車って…パンタグラフがあるだろ…?」
加藤は絶句した。そして、再び静かに窓の外を見つめた。雨は、まだ降り続いていた。