ロッキン対餅つき!伝説に残るはずだったライブの結末
灼熱の太陽が照りつける真夏の野外ステージ。派手なアロハシャツに身を包んだ男、ハラキリ・ハチベエが、汗だくになりながらマイクスタンドを握りしめていた。
「うおおおおおお!ロッキン!アツいぜ!…あ、あれ?なんか今日、お客さん少ないっすね?」
ハチベエの問いかけに、客席からまばらな拍手が起こる。ざっと見渡しても、観客は3人ほどしかいない。
ステージ袖から、パンダの着ぐるみを着た男が慌てて飛び出してきた。名前はパンダ・ザ・グレート。ハチベエのバンドの、自称プロデューサーだ。
「ハ、ハチベエさん!大変です!どうやら今日は、近くの広場で『無料の餅つき大会』が開催されているらしく…みんなそっちに行っちゃったみたいなんです!」
「餅つき大会!?ロッキンより餅つき!?ロックは餅に負けたのか…!?」
ハチベエは天を仰ぎ、悲痛な叫びを上げた。パンダ・ザ・グレートは、申し訳なさそうに頭を下げる。
「でも、せっかく準備したんですし…やっちゃいますか?3人のために!」
ハチベエはしばし考え込む。そして、ゆっくりとマイクに口を近づけた。
「そうだな…餅つき大会に負けた腹いせに、今日は伝説に残るような熱いライブを見せてやるぜ!3人のお客さん!準備はいいか!?」
「「「おーーーーー!!!」」」
3人の観客は、まるで数百人の観客がいるかのような大歓声で応えた。ハチベエはニヤリと笑う。
「よし、いくぜ!一曲目!『灼熱の太陽よりもアツい!俺のロックンロール魂!』…って、あれ?ギターがない!」
「「「えええええええ!?」」」
ハチベエが慌ててステージ上を探し回ると、パンダ・ザ・グレートがボソッと呟いた。
「…あ、すみません。ギター、餅つき大会の景品にするために、こっそり持って行っちゃいました…」
「「「えええええええ!?」」」「てか餅つき大会の見方かよ!」
ハチベエは頭を抱え込んだ。伝説に残るはずだったライブは、開始早々、まさかのギター紛失というトラブルに見舞われた。
「…仕方ない。今日はギターなしで、アカペラでいくか!聴いてくれ!『灼熱の太陽よりもアツい!俺のロックンロール魂!』…って、あれ?声が出ない!」
「「「えええええええ!?」」」
「あ、すみません。さっき餅を喉に詰まらせちゃって…」
パンダ・ザ・グレートの衝撃の告白に、ハチベエはもはや何も言えなかった。灼熱の太陽の下、伝説に残るはずだったロッキンは、静寂に包まれた。
「…餅、美味しかったですか?」
3人の観客のうちの1人が、静かに尋ねた。ハチベエは、力なく頷いた。
「…うん、めちゃくちゃ美味しかった…」
こうして、伝説に残るはずだったロッキンは、餅つき大会の勝利に終わった。