コミケ伝説!宇宙ヤギ牧場の衝撃!
真夏の陽射しが容赦なく照りつける、東京ビッグサイト。その一角、ひときわ異彩を放つブースがあった。名前は「宇宙ヤギ牧場」。所狭しと並べられたのは、なぜかヤギの着ぐるみ。それも、宇宙服を着たヤギの着ぐるみだ。
ブースの前に立つのは、緑色の宇宙服を着た女性、ユキ。そして、隣には紫色の宇宙服を着た男性、タケシ。2人とも汗だくになりながら、通行人にチラシを配っている。
「いらっしゃいませー!宇宙ヤギ牧場、コミケ初公演ですよー!」ユキの声は、暑さと疲労でかすれていた。
「本物の宇宙ヤギが見られるのは、ここだけですよー!」タケシも負けじと叫ぶが、通行人は皆怪訝な顔をして通り過ぎていく。
「ねえ、タケシ。本当にこれでいいの?宇宙ヤギなんていないのに…」ユキは不安そうにタケシを見つめる。
「大丈夫だって!ほら、チラシにもちゃんと書いてあるだろ?『宇宙ヤギは想像上の生き物です』って」タケシはチラシを指さしながら、自信満々に答えた。
「でも、誰も立ち止まってくれないよ…」ユキは肩を落とす。
「よし、奥の手だ!」タケシはそう言うと、ブースの奥から大きな拡声器を取り出した。
「え?何するの?」
タケシは拡声器を口元に近づけ、大声で叫んだ。「ただいま、宇宙ヤギが脱走しました!見かけた方は至急ご連絡ください!」
その瞬間、周囲の空気が凍りついた。通行人は一斉にタケシの方を振り返り、ざわめき始めた。
「ちょ、ちょっとタケシ!何やってるの!?」ユキは慌ててタケシの腕を引っ張る。
「大丈夫だって!これで注目を集められるだろ?」タケシはニヤリと笑う。
その言葉通り、ブースの前には人だかりができていた。しかし、彼らの視線は好奇心ではなく、明らかに不信感に満ちていた。
「あの…宇宙ヤギって、本当にいるんですか?」一人の男性が恐る恐る尋ねてきた。
「え…ええ、まあ…」タケシは言葉を濁す。
「さっき、脱走したって言ってましたよね?」別の女性が鋭い視線でタケシを睨む。
「あ、あれは…その…」タケシは冷や汗をかきながら、言い訳を探そうとする。
「ねえ、タケシ。そろそろネタばらしした方がいいんじゃない?」ユキが小声で囁く。
タケシは観念したように深呼吸をし、拡声器を再び手に取った。「えー、皆様にお知らせがあります。先ほどの宇宙ヤギ脱走の件ですが、実は…」
そこで、タケシは言葉を詰まらせた。
「実は…?」周りの人々は固唾を飲んで見守る。
タケシは意を決したように叫んだ。「**ヤギの着ぐるみを着ていたスタッフの一人が、暑すぎて脱走しました!**」
会場は静まり返った後、一斉に爆笑に包まれた。
ユキは頭を抱えながら、呟いた。「もう、タケシったら…」
結局、宇宙ヤギ牧場はコミケで一番頭のおかしいブースとして、伝説になったとか、ならなかったとか。