フェイクイチゴと雲みたいなクリーム
古びた喫茶店の一角。窓際の席では、真っ赤な革ジャンに身を包んだ大柄な男「赤木」と、天然系の可愛らしい女性「桃山」が向かい合っていた。テーブルの上には、半分ほど残ったイチゴパフェが佇んでいる。
「なあ桃山、お前イチゴパフェ頼んでたくせに、イチゴ残してんじゃねえか」赤木は野太い声で言った。
桃山はイチゴをフォークで丁寧に突き刺しながら、「だって、イチゴって宝石みたいで可愛いじゃない。食べるのもったいなくて」と、つぶらな瞳を輝かせた。
赤木はあきれ顔で、「宝石みてえなイチゴってなんだよ。イチゴはイチゴだろ。それに、もったいないなら最初から頼むなよ」と、呆れたように言った。
桃山はイチゴをフォークから外し、じっと見つめた後、おもむろに赤木の革ジャンに縫い付けた。「ほら、これでイチゴも輝けるでしょ?」
赤木は目を白黒させながら、
「は?なんで俺の革ジャンに縫い付けるんだよ!取れなくなるだろ!」と、声を荒げた。
すると桃山は、「大丈夫、大丈夫。このイチゴ、実はフェイクなんだ」
と、悪びれずに言った。赤木はさらに困惑した顔で、
「全然大丈夫じゃない!フェイクのイチゴって何だよ?!さっきまで本物のイチゴだと思って、もったいないもったいないって言ってたくせに、結局イチゴを俺の革ジャンに縫い付けたってことか?」
「そうだよ!本物のイチゴだったらもったいなくて縫い付けられないもん!」桃山は満面の笑みで答えた。
赤木は頭を抱え込み、「もう、お前ってやつは…」と、言葉を失った。しばらく沈黙が続いた後、桃山はまたイチゴパフェに手を伸ばし、今度はクリームだけをスプーンですくい上げた。
「クリームって、雲みたいでふわふわしてて可愛いよね」
赤木は、また始まるのかと身構えながら、
「だから、可愛いからって残すなって言ってんだろ」と、ため息をついた。
桃山はクリームをスプーンの上で転がし、じっと見つめた後、おもむろに赤木の頭にのせた。
「ほら、これで赤木くんも雲みたいで可愛くなったでしょ?」
赤木は怒りを通り越して、「何やってんだオマエー!!」と、叫んだ。
桃山は満足そうに、「うん、可愛い!」と、言って、残りのパフェを一人で食べ始めた。
赤木は満更でもなさそうに頭の上のクリームを落とさないように、じっと座っていた。
一体、いつになったらこの喫茶店から出られるのだろうか。