おじさんの詰め合わせと不思議な男性たち
「なんだよ、このポスター。おじさんの詰め合わせみたいじゃん」
そう呟くのは、都内のマンションの一室で、窓の外を眺めていた佐伯(さえき)だ。彼は30代後半、おしゃれなカフェで働くバリスタだが、内心は退屈で仕方ない日々を送っていた。
「おじさん、って言葉、ちょっと失礼じゃない?」
隣で本を読みながら、そう言ったのは、佐伯の同居人である天野(あまの)だ。天野は20代後半のフリーランスのイラストレーターで、佐伯とはSNSで知り合い、意気投合してルームシェアを始めた。
「失礼?いや、だって事実じゃん。男ばっかりだし」
佐伯は、テレビに映し出されている自民党総裁選のポスターを指差した。ポスターには、歴代の総裁と思しき男性たちがずらりと並んでいた。
「でもさ、おじさんって、別に悪口じゃないでしょ?むしろ、経験豊富で頼りになるイメージがあるじゃん」
天野は、本を閉じて佐伯の方を見た。
「頼りになる?はぁ、最近の若い子はそう思うのか。昔のおじさんはね、もっと威圧感があったんだよ。特に政治家なんて、顔つきも怖いし、話しかけるのも躊躇するほどだった」
佐伯は、苦々しい表情で言った。
「えー、でも、今はみんな優しいおじさんばっかりじゃない?ほら、あのポスターのおじさんたちだって、きっと優しい顔してるでしょ」
天野は、ポスターのおじさんたちの顔をじっと見つめた。
「優しい顔?うっ、うっ、うっ……うわあああー!」
天野は、突然、悲鳴を上げ、部屋の隅に駆け寄って丸まった。
「どうしたんだよ!?」
佐伯は、慌てて天野に駆け寄った。
「だって、ポスターのおじさん、みんな私の部屋に、私のベッドに、私の布団に、私の枕に…!!」
天野は、泣きながら叫んだ。
「おいおい、落ち着けよ!そんなこと、ありえないだろ。それに、さっきまで優しい顔だって言ってたじゃん」
「えー、でも、なんか、怖い…私の部屋に、おじさんたちがたくさんいる…」
天野は、顔を真っ赤にして、震えていた。
「落ち着け、落ち着け。ほら、窓の外見てごらん。青い空が見えるだろう?綺麗だろう?」
佐伯は、天野を窓際に連れて行き、外の景色を見せた。
「あー、綺麗…でも、やっぱり怖い…」
天野は、まだ不安そうで、佐伯の腕にしがみついていた。
「大丈夫だ。俺が守ってやる。ほら、コーヒー飲もう」
佐伯は、天野にコーヒーを差し出した。天野は、ゆっくりとコーヒーを飲みながら、少しずつ落ち着いていった。
「…ところで、佐伯さんって、もしかして、おじさん好き?」
天野は、急にそんなことを聞いてきた。
「え、な、なんでそんなこと聞くんだよ!?」
佐伯は、顔を真っ赤にして慌てて答えた。
「だって、さっきから、おじさん、おじさん、って。それに、ポスターのおじさんたちをじっと見てたし」
天野は、いたずらっぽい笑顔を見せた。
「おいおい、そんなことないよ!ただ、昔のおじさんの話を思い出しただけだ!」
佐伯は、ごまかすようにそう言った。
「ふーん、そうかな?でも、おじさんって、なんか、魅力的じゃない?」
天野は、目をキラキラさせながら言った。
「おいおい、ちょっと待てよ!まさか、お前、おじさん…?」
佐伯は、驚いて言葉を失った。
「えー、なんでそんなこと聞くの?別に、おじさん好きじゃないよ!」
天野は、再び顔を真っ赤にして慌てて答えた。「…そうか」
佐伯は、複雑な表情で天野を見つめた。
「…でも、もし、おじさん好きだったら、教えてね。俺、おじさんには詳しいから」
佐伯は、そう言って、天野の肩に手を置いた。
「…わかった」天野は、少し照れくさそうに答えた。
それから、二人は窓の外を見ながら、静かにコーヒーを飲んだ。部屋には、ポスターのおじさんたちの視線を感じた。しかし、二人の間には、不思議な友情が芽生え始めていた。