3人分の働きができるEU旅行男の白紙ライフ

「体感2年働いたから、2年分の休暇を満喫する権利があるだろう?」

真っ白な砂浜に寝そべりながら、サングラス越しにギラギラと輝く地中海を見つめ、男は呟いた。男の名は田中一郎、32歳。自称「3人分の働きをする男」である。その言葉通り、彼は前職で文字通り3人分の仕事をこなし、わずか1年で燃え尽きてしまったのだ。

 

「まあ、3人分働いたって給料は1人分だったんだけどね…」

ボソッと呟いた一郎の隣で、色鮮やかなパラソルを片手に、日焼け止めクリームを塗りたくる女性がいた。彼女は佐藤花子、一郎の大学時代の後輩であり、なぜかEU旅行に同行している。

 

「先輩、またその話?しつこいなぁ。それに、EUに来たからって人生の白紙が埋まるわけじゃないでしょ?」

「いや、違うんだ花子。これは戦略的な撤退、充電期間なんだ。地中海の波の音を聞いていると、不思議とアイデアが湧いてくるんだよ。」

「アイデア?どんな?」

花子は興味なさそうに聞き返した。一郎は得意げに胸を張り、サングラスをくいっと上げる。

 

「例えば…この地中海に巨大なウォータースライダーを作って、ヨーロッパ中の人々を滑り落とすっていうのはどうだ!?」

「…は?」花子は開いた口が塞がらない。思わず手に持っていた日焼け止めクリームを落としそうになった。

 

「ヨーロッパ横断ウォータースライダー!夢があるだろう?きっと世界中から観光客が押し寄せるぞ!」

「いやいやいや、そんなバカな。まず実現不可能だし、そもそも誰がそんな危ないスライダーに…」

「実現不可能?そんなことはない!俺は3人分の働きができる男だ!きっと…」

 

一郎の壮大な計画(?)を聞いているうちに、花子はだんだん頭痛がしてきた。彼女はそっとパラソルを閉じ、立ち上がった。

「…先輩、私ちょっとジェラート買ってきますね。」

「ああ、頼む!ダブルで!」

花子が去った後も、一郎は1人、地中海を眺めながら、ヨーロッパ横断ウォータースライダーの設計図を頭の中で描き続けていた。

彼の頭の中は、相変わらず白紙どころか、奇想天外なアイデアで埋め尽くされていた。

 

そして、その日の夜、一郎は宿で奇妙な夢を見た。夢の中で彼は、巨大なウォータースライダーを滑り降りていた。そして、そのスライダーの終着点は…なぜか日本のハローワークだった。

「…あれ?もしかして、俺、日本に帰らないとダメなのかな?」

夢の中で、一郎は小さく呟いた。彼のEUでの白紙ライフは、まだまだ続きそうである。少なくとも、ジェラートを食べ終わるまでは。