ケーブルと石でできた日よけの恐怖
建築家志望の大学生、田中は頭を抱えていた。彼の隣には、サングラスをかけた飄々とした雰囲気の男、黒岩教授が立っている。
「石を…何百個も…ケーブルで吊るして…日陰を作るって、発想がぶっ飛んでません?石って…重たいですよね」
黒岩教授はニヤリと笑った。「斬新だろ?君、建築を学ぶものとして、常識に囚われてはいけないんだ。固定概念をぶち破るんだ!」
「いや、常識以前の問題かと…」田中はツッコミながらも、目の前に広がる建設予定地を眺めた。
ここは大阪万博の休憩所予定地。黒岩教授は万博のデザインコンペにこの斬新すぎる「石の日陰」で応募し、なんと採用されてしまったのだ。
「750個の石ですよ、教授!合計90トンですよ!それ、本当に日陰になるんですか?」田中の声はもはや悲鳴に近かった。
教授は自信満々に答えた。「なるなる!ただし、ケーブルで吊るから隙間だらけで、光は漏れるし、雨も漏れるけどな!」
田中のツッコミが追いつかない。日陰にならない日陰、雨も防げない休憩所。これが万博の休憩所として本当に機能するのか、田中には全く想像がつかなかった。
数ヶ月後、万博会場に「石の日陰」が完成した。それは、巨大な石がいくつもケーブルで吊るされた、なんともシュールな光景だった。
初日から多くの人がこの奇妙な休憩所に集まった。しかし、誰も石の下に座ろうとはしない。
「だって…なんか…怖いし…」
一人の女性が呟いた。確かに、頭上に巨大な石がぶら下がっている光景は、休憩どころか恐怖を感じさせる。
黒岩教授は誇らしげに田中に言った。「どうだ、田中君!大盛況じゃないか!」
「いや、教授…誰も石の下に入ってないですよ…」田中は呆れ顔で答えた。
結局、「石の日陰」は、休憩所としての機能はほぼ果たさず、ただただ奇妙なオブジェとして万博会場に鎮座することになった。
後日、黒岩教授は田中を呼び出し、新たな計画を語り始めた。
「次はな、田中君…研究室の君の席の上に石を吊るして…」
「教授!また石ですか!?」
田中の叫びが、万博会場に虚しく響き渡った。彼の長い闘いは、まだ始まったばかりだった。