元自称エリートサラリーマン、動物園飼育員に!?
「3割だって?そんな奴いるわけないだろ!身の程を知れよ、ザコどもが!」
薄暗いアパートの一室で、カップラーメンを啜りながら独身貴族の田中一郎(35歳)はPC画面に向かって毒を吐いていた。画面に映っているのは、「転職経験者の3割『辞めた会社に戻りたい』」という見出しの記事だ。
「だいたいな、辞めた会社に戻りたいってどういう了見だよ。未練たらたらか?未練がましいんだよ!前に進むべきだろうが!」
田中は勢い余ってスープをキーボードにこぼしそうになり、慌ててティッシュで拭き取った。
「大体、会社だって戻ってほしい人材なんてほとんどいねーよ。俺だって自営やったり、色々やったけど、戻ってきてほしいなんて思った奴は一人もいないね!」
田中はドヤ顔でそう言い放ったが、彼の自営業はわずか3ヶ月で潰れ、その後はアルバイトを転々としているのが現状だ。
「まあ、仮にだよ?仮に俺がヘッドハンティングされたとしてだな…」
田中は空になったカップラーメンをゴミ箱に放り投げ、立ち上がった。
「『社長!お久しぶりです!ヘッドハンティングありがとうございます!この会社には未練もありましたし、ぜひともお役に立ちたい!給料は前の3倍でお願いします!』って言うね!」
田中は一人芝居に熱中し、部屋の中を闊歩する。
「で、社長は『田中君!待っていたよ!君なしではこの会社はやっていけない!給料3倍?もちろんOKだ!いや、5倍でもいい!頼む!戻ってきてくれ!』って土下座するわけだ!」
田中の妄想はどんどんエスカレートしていく。
その時、インターホンの音が鳴った。
「なんだ?こんな時間に…」
田中はインターホンに出ると、そこには見慣れない男が立っていた。
「田中一郎さんですね?私は○○動物園の園長です。実は…」
園長は深々と頭を下げた。
「以前、田中さんが当園で飼育員として働いていた時のことを覚えていらっしゃいますか?あの時の田中さんの働きぶりは素晴らしく、動物たちも懐いていました。実は、最近、動物たちが元気がなく、食欲も落ちてしまって…田中さん、どうか戻ってきてください!動物たちを救ってください!」
園長は涙ながらに訴えた。
田中は目を丸くした。動物園?飼育員?そんな記憶は全くない。
「あの…私、動物園で働いたことは…」
田中が言い終わる前に、園長は田中の手を握りしめた。
「田中さん!給料は前の3倍…いや、5倍にします!どうか、戻ってきてください!」
園長の目は真剣そのものだった。
田中は困惑した。なぜ動物園?なぜ飼育員?そして、なぜ給料5倍?
しかし、田中の脳裏には、先ほどの妄想が蘇ってきた。
「社長…いや、園長!ありがとうございます!実は私も動物園には未練がありました!ぜひともお役に立ちたい!動物たちを救いたい!」
田中は園長の手に自分の手を重ねた。
こうして、田中はなぜか動物園の飼育員として再就職することになった。
「それにしても、なぜ俺が飼育員…?」
田中は動物園に向かうバスの中で、首を傾げていた。
「まあ、給料5倍だし、いいか…」
田中はそう呟き、窓の外に広がる景色を眺めた。
しかし、田中が動物園で待ち受けていたのは、想像を絶する現実だった…。
(続く)