1億円トイレの謎を追え!秘境ハンター、税金無駄遣いを暴く
「おい、見てみろよ、ゴンゾウ。」
ヒョロヒョロとした体躯の男、ヨシキチが、観光マップを片手に、異様な興奮を隠せずに言った。
ゴンゾウと呼ばれた大柄な男は、リュックから取り出した麦わら帽子を目深にかぶり直し、あくび混じりに返事をする。
「なんだよ、朝から騒々しいな。また何か珍妙なものでも見つけたのか?」
二人は自称「秘境ハンター」、実態はただの暇な中年二人組。日本全国の変わった場所を探し求め、珍スポット巡りを趣味としている。今回の目的地は、奈良の山奥にある、通称「1億円トイレ」だ。
「それがよ、このトイレ、ただのトイレじゃないんだぜ。村おこしの起爆剤として、村長が血税を注ぎ込んだ、いわば芸術品なんだと!」
ヨシキチは目を輝かせながら、スマホで掲示板の記事を見せる。「地元産のヒノキをふんだんに使い、バリアフリー完備、おむつ交換台も設置。さらに観光パンフレットまで置いてあるらしい。まさに至れり尽くせりだ」
ゴンゾウは記事を読みながら、鼻を鳴らす。「ふむ、要するに、税金の無駄遣いってやつだな。まあ、話のネタにはなるか。」
現地に到着した二人は、そのトイレを目の当たりにして、しばし呆然とした。確かに立派な建物だが、周囲の自然に全くそぐわない。まるで場違いな高級ホテルが、ひっそりと佇んでいるかのようだ。
「どうだ、ゴンゾウ。想像以上だろ? これが1億円の風格だよ!」ヨシキチは興奮気味に叫んだ。
ゴンゾウは冷静にトイレの周りを一周し、隅々まで観察する。「ヒノキは確かに良いものを使っているな。だが、この規模で1億円はあり得ない。どう考えても、半分以上はどこかに消えているな。」
トイレの中に入ると、予想通りピカピカに清掃されていた。しかし、観光パンフレットは一枚もなく、ただ清潔な空間が広がっているだけだ。
「あれ? パンフレットは?」ヨシキチが焦ったように辺りを見回す。
その時、ゴンゾウが奥の個室から出てきた。「おい、ヨシキチ。大変なものを見つけてしまったぞ。」
個室に入ると、壁一面にびっしりと落書きが。「村長、税金ドロボー!」「1億円返せ!」など、怨嗟の声が渦巻いている。
「こりゃあ、完全に村人の怒りの矛先だな。」ゴンゾウは苦笑する。
「でもよ、ゴンゾウ。考えてみろよ。この落書きも、ある意味芸術じゃないか? 村人の魂の叫びが、このトイレに刻まれているんだ。」ヨシキチは妙に感心した様子で言った。
ゴンゾウは呆れながらも、どこか納得している。「まあ、そうだな。ある意味、現代アートだ。しかし、このトイレ、本当に1億円の価値があるのかどうか、徹底的に調べてみる価値はあるな。」
二人は村役場に乗り込み、トイレの建設費に関する資料を見せてもらうことにした。すると、そこには驚くべき事実が隠されていた。
「なんだこれは!? 用地取得費が700万円、駐車場整備費が1600万円…って、駐車場にベンツでも埋めたのか!?」ゴンゾウは目を剥く。
ヨシキチも資料を食い入るように見つめる。「設計費も700万円…って、ダ・ヴィンチにでも依頼したのかよ!」
さらに驚くべきことに、資料の合計金額と、実際の建設費には約4000万円もの差額があった。「その他」という名目で計上されているその金額は、まさにブラックボックスだ。
「こりゃあ、完全にクロだな。」ゴンゾウは確信する。
「よし、ゴンゾウ。俺たちは真実を暴くぞ! この1億円トイレの謎を解き明かすんだ!」ヨシキチは拳を握りしめた。
二人は村中を奔走し、関係者に聞き込み調査を行った。すると、村長の親戚が経営する建設会社が、このトイレの工事を請け負っていたことが判明した。
「やっぱりな。」ゴンゾウはニヤリと笑う。
そしてついに、二人は決定的な証拠を掴んだ。村長と建設会社社長が、ゴルフ場で密会している写真を入手したのだ。
「これで終わりだ。」ゴンゾウは確信した。
二人はすべての証拠をまとめ、村議会に提出した。そして、村長のリコール運動が始まり、ついに村長は辞任に追い込まれた。
数ヶ月後、二人は再び「1億円トイレ」を訪れた。トイレは以前と変わらず、ひっそりと佇んでいる。しかし、壁の落書きは綺麗に消され、代わりに村人たちの感謝のメッセージが書かれていた。
「やったな、ゴンゾウ。俺たちの勝利だ!」ヨシキチは満面の笑みを浮かべる。
ゴンゾウは麦わら帽子を深くかぶり直し、一言。「まあな。だが、税金の無駄遣いは、まだまだ全国各地に眠っている。次の秘境を探しに行くぞ。」
その時、トイレの中から一人の老人が出てきた。老人は二人に深々と頭を下げ、こう言った。「ありがとう。あなたたちのおかげで、村は救われました。お礼と言ってはなんですが、これをお受け取りください。」
老人が差し出したのは、なんと「1億円トイレ」のトイレットペーパーだった。しかも、金色の箔押しが施された、特注品だ。
「…これは、一体?」ヨシキチは唖然とする。
「村の新しい名物だそうです。1ロール1万円で販売しているとか。」ゴンゾウは苦笑する。
「…結局、税金の無駄遣いは終わってないじゃないか!」ヨシキチは叫んだ。
二人は顔を見合わせ、盛大に笑い出した。秘境ハンターの旅は、まだまだ続く