ベテラン漁師、鳴門海峡でドッキリ修行
海風がビンタを食らわす勢いで吹き荒れる、鳴門海峡。その荒波にも負けず、一艘の小さな漁船が浮かんでいた。
船首には、顔に無数の傷跡を持つベテラン漁師の源さん(78)。その隣には、源さんのような漁師を目指す弟子の陸太郎(24)。
「源さん、あれですよ、あれ!」陸太郎が指さす先には、大きな渦がいくつも口を開けていた。
「あれが……かの有名な、鳴門の渦潮か……」源さんは感慨深げに呟いた。
「そうですよ!吸い込まれたら最後、海の底ですよ!」陸太郎は興奮気味に叫んだ。
「海の底……」源さんは少し考え込んだ後、「陸太郎くん、ちょっと潜ってみてくれんか?」
「え、潜る?渦潮に?」陸太郎は目を丸くする。
「ああ、海の底の様子を詳しく知りたいんじゃ。頼んだぞ。」源さんは陸太郎の肩をポンと叩いた。
「いや、でも、あの、渦潮ですよ?吸い込まれたら死にますよ!」陸太郎は渦潮を恐る恐る見つめる。
「大丈夫じゃ。わしが見とるから。」源さんはニヤリと笑った。
陸太郎(いや、全然大丈夫じゃないだろ!)
「いや、でも……」陸太郎は躊躇していたが、いきなり源さんが背中を押してきて、渦潮に向かって突き落とされてしまった。
「グルグルグル……」陸太郎は渦潮に巻き込まれ、ぐるぐると回転しながら海の底へと沈んでいく。
「……あれ?」源さんは目を細めて海面を見つめる。「なんか、思ってたんと違うな……」
しばらくすると、陸太郎が海面からひょっこりと顔を出した。
「どうじゃ、海の底は?」源さんが尋ねる。
「ゴミが多かったです……、それより死ぬかと思いましたよ!」
「ゴミが多いか……そうか……」源さんは腕組みをして考え込む。
「あの……源さん?」陸太郎が恐る恐る尋ねる。「もしかして、僕を海の底の調査に……?」
「いや、そんなことはない。」源さんはきっぱりと否定した。
「わしはただ、陸太郎くんが渦潮に巻き込まれて、どうなるのか見たかっただけじゃ。」
「えぇ!?」陸太郎は絶句した。
「ははは、冗談じゃよ。」源さんは豪快に笑った。「陸太郎くん、今度はもっと大きな渦に飛び込んでみんか?」
「もう嫌です!」陸太郎は叫びながら、必死に漁船にしがみ付いた。
「渦に飛び込まんと、立派な漁師になれんぞ!これも修行じゃ!ははは!」源さんは再び豪快に笑った。
陸太郎は、いくつ命があっても足りないと思い、この漁船から逃げ出そうと考えている。
しかし、源さんの隻眼の鋭い眼光を見るたびに、その勇気は海の藻屑と消えてしまうのであった。
その後も、源さんの奇想天外な要求に振り回されながらも、源さんと陸太郎の奇妙な冒険は続いた。
おしまい