念力家電マスターの悲劇
「ついにこの日が来たか…!」
薄暗い部屋の中、唯一光るパソコン画面に釘付けになっているのは、自称天才発明家の藤吉博士だ。ボサボサの白髪に、白衣のポケットからは様々な工具が顔を覗かせている。彼の目は爛々と輝き、まるで少年のように興奮していた。
博士が心待ちにしていたのは、最新家電制御アプリ「家電マスター4.0」のアップデート。このアプリを使えば、家中の家電をスマホ一つで操作できるという優れものだ。今回のアップデートでは、なんと念じるだけで家電を操作できる「脳波コントロール機能」が追加されたのだ。
「ついに人類は念力を使える時代になったのだ!」
博士は高らかに宣言し、意気揚々とアプリを起動する。
「よし、まずは冷蔵庫を開けて…えいっ!」
博士は冷蔵庫を睨みつけ、渾身の力で念を送る。しかし、冷蔵庫は微動だにしない。
「あれ?おかしいな…もう一度!」
今度は眉間に皺を寄せ、より強い念波を送る。それでも冷蔵庫は冷たい反応を示すばかり。
「なぜだ…私の念力が…弱いのか…?」
博士は肩を落とし、がっくりと椅子に座り込む。すると、背後から冷たい声が聞こえてきた。
「博士、念じる前にヘッドセットを装着しないと脳波を読み取れませんよ」
声の主は、博士の助手である涼子だ。彼女は冷静沈着で、博士の奇行にいつもツッコミを入れている。
博士は慌てて振り返り、「あ、そうだった!」と叫ぶ。どうやら興奮のあまり、肝心なことを忘れていたようだ。
ヘッドセットを装着し、改めて冷蔵庫に念を送ると、今度は見事成功!冷蔵庫の扉がゆっくりと開いた。
「やったー!成功だ!」
博士は飛び上がって喜び、続いてテレビ、エアコン、照明と、次々に家電を念力で操作していく。まるで魔法使いになったかのような気分だ。
しかし、調子に乗った博士は、つい思いついたことを試してみたくなった。
「そうだ!あの機能も試してみよう!」
博士はニヤリと笑うと、アプリの設定画面を開き、「念力増幅モード」をオンにした。これは、念じる力を10倍に増幅するという、実験段階の危険な機能だ。
「これで冷蔵庫を…えいっ!」
博士は冷蔵庫に向かって、今まで以上の強力な念波を送った。すると、冷蔵庫が激しく振動し始め、冷蔵庫の中から「ブォォォン!」という轟音が響き渡る。
「う…うおおおおお!」
冷蔵庫はまるでロケットのように浮き上がり、天井に激突!部屋中に冷蔵庫の中身が飛び散り、あたりは一瞬にして修羅場と化した。
「…博士、やりすぎです」
涼子は呆れた表情で、床に散らばったヨーグルトを眺めていた。
博士は頭を抱え、呟く。
「…どうやら神アプデには、代償がつきものだな…」
こうして、博士の念力家電操作実験は、冷蔵庫の爆発という悲劇的な結末を迎えたのであった。