マモルとイルカ子 ビーチで恐怖の出会い
海水浴客で賑わう夏の砂浜。中年男性、浜田マモル(56)は、一人寂しく砂の城を作っていた。
「今年の夏も…一人か…」
マモルは独り言をつぶやきながら、丁寧に砂の城壁を築き上げていく。そこへ、派手な水着を着た、見るからに陽気そうな女性が近づいてきた。
「あら、素敵なお城ね!一人で作ったの?」
「え、あ、はい…」
突然話しかけられて、マモルは戸惑いを隠せない。
「私、イルカ子って言うの!仲良くしてくれない?」
「イル…カ子さん?」
イルカ子と名乗る女性は、イルカ柄の浮き輪を小脇に抱え、満面の笑みでマモルを見つめている。イルカ柄…イルカ…もしかして…
マモルの脳裏に、最近ニュースでよく見かける「海水浴場 イルカ 噛む」の文字がよぎった。
「いや、その…僕は一人で静かに砂遊びを…」
「えー、つまんないの!一緒に海入ろうよ!」
イルカ子はマモルの腕を掴んで、無理やり海へと引きずり込もうとする。
「ちょ、ちょっと!僕は泳げないんだ!」
「大丈夫!私がイルカみたいにスイスイ泳がせてあげる!」
イルカ子は自信満々に宣言した。ますます怪しい…マモルは恐怖を感じ始めた。
「いや、だから、イルカみたいにって…まさか…」
マモルの言葉はそこで途切れた。イルカ子は、まるでイルカのように高くジャンプし、そのままマモルの肩に飛び乗ったのだ。
「ぎゃあああああ!」
マモルの悲鳴がビーチに響き渡る。イルカ子は、マモルの肩の上でピョンピョンと跳ね回りながら、楽しそうに叫んだ。
「ほらほら!イルカ乗りだよ!楽しいでしょ!」
「怖いよー!降りてくれーー!」
「やーだ!もっともっと海の中を冒険するんだから!」
イルカ子は、まるで手綱を引くようにマモルの頭を掴み、海へと向かって走り出した。
「うわああああああ!誰か助けてくれえええええ!」
マモルの叫び声は、波の音にかき消されて、誰にも届かなかった。
こうして、マモルはイルカ子に連れられ、恐怖の海上散歩へと出発したのであった。
後日、マモルは再び一人で砂浜に座っていた。肩には大きな絆創膏が貼られている。
「…やっぱり、一人で砂の城を作るのが一番だな…」
マモルは静かに呟き、砂を握りしめた。
「あれ?マモルさん、また一人で砂遊びしてるの?」
イルカ子が、再びマモルの前に現れた。
「今度はサメ子って言うの!仲良くしてくれない?」
マモルの顔から、みるみる血の気が引いていく。今度はサメ…!?
「…もう、勘弁してください…」
マモルの魂は、すでに夏の太陽よりも熱く燃え尽きていた。